どうも!カルロウです!
久しぶりのブログ更新となって申し訳ございません。
さて今回もイタリアに行ったことのない僕がイタリアの文化を偉そうに語るブログがやってきましたね()
今週末ミラノダービーが行われます。また先日にはローマダービーもありましたが、とても白熱した戦いとなりました。
またローマダービーに関したことといえばローマダービーは世界でも有数の仲の悪いダービーでもあります。2013年に行われた試合で押収されたものにはこんなものが…
え、戦争!?
ローマっ子は文字通り命をかけてダービー観戦に行ってるのですね。
ではなぜこんなにもイタリアサッカー界においてダービーは白熱するのでしょうか?実はそれはイタリア人の根底にあるCampanilismo(カンパニリズモ)という価値観が関係しているのです…
①カンパニリズモとは?
Campanilismo(カンパニリズモ)はしばしば「郷土愛」と訳されます。これはCampanileという鐘楼(鐘のついている塔)が語源となっております。人々は昔から自分の町の教会の鐘の音を聞いて生活しています。しかしこの鐘の音は街によって様々です。そのため鐘楼が自分の街のシンボルとして作用するのです。このようにして「街のシンボルとしてのCampanile」からこの言葉が生まれました。
例えば世界中から大人気の観光都市ヴェネツィアだと、サンマルコ広場にある鐘楼は有名ですよね。ヴェネツィアに行ったことない僕でも知っているほど、ヴェネツィアの人にとってCampanileは街のシンボルとして作用しているのです。
先程カンパニリズモの訳語として「郷土愛」を当てました。しかしこれには自らの街を愛することはもちろん、他の街への憎しみや羨みも混じっています。「ふるさとはいいなぁ…」ではなく「俺の街がナンバー1!異論は認めない」といった感じでしょうか。
そのため、通常の郷土愛は肯定的なコンテキストで用いられることが多いですが、カンパニリズモは否定的なコンテキストで用いられることも多いそうです。
イタリアの歴史を知っていればそうなるのも無理がないことがわかると思います。イタリアが統一されたのはたった150年前の1870年です。中世からそれまで基本的にはずーっと「別の国」としてやっていたわけです。その中でも特に中世は町の多くは城壁に囲まれてるわけですもんね。それでは仲間意識なんて生まれません。
さらに、統一されて国民国家となった後も文化的な統一は遅れました。そのため、国としての帰属意識(僕はイタリア人)よりも地元としての帰属意識(僕はフィレンツェ人)が強まってしまったそうです。そういえばDAZNの北川さんも「イタリアでは代表戦はお祭りみたいなもん。負けてもそんなに批判されない」と言ってましたね。
②サッカーとカンパニリズモ
ただそんなカンパニリズモも個々人の移動が活発化するなどのグローバル化によって弱まって行きます。しかしそんな中でも未だにカンパニリズモが色濃く残っている分野があります。そう、カルチョ(サッカー)です。ユベントスやインテルなどの世界的ビッグクラブは少し違うかもしれませんが、プロビンチャと呼ばれる地方サッカークラブにおいては、その選手達はおらが町の代表なのです。これらのことからイタリアには地域密着型のクラブが多いことは想像つきやすいでしょう。
例えば近年成績優秀で現在CLベスト16に残るほど快進撃を見せているアタランタ。彼らのホームタウンベルガモはミラノからほど近い人口12万人の小さな都市。街の規模的に彼らが世界的メガクラブになるには難しいでしょう。そのため、彼らはしっかりと地元のファンを定着させるために様々なことをやっています。特に強烈なのは、生まれた赤ちゃん全員にアタランタのユニフォームを配っていることでしょう。そんなことされたら嫌でもアタランタファンになりますよね笑。そのおかげもあってかベルガモではほぼ100%がアタランタのファンになっています。
ELやCLでホームスタジアムが規定を満たせず使えなかった時、ELではサッスオーロのマペイ・スタジアムまで、CLではミラノのサン・シーロまで大勢のファンがベルガモから詰め掛けていたが印象的でしたよね!彼らは自分の店を閉めてまで愛するクラブを遠路はるばる応援しに行くのです。
この話は下記のDerby Daysより抜粋しました。
③カンパニリズモの魅力
カンパニリズモの魅力は先程言った地域密着の他、デルビー(イタリア語でダービー)の盛り上がりにあるでしょう。どこの国もダービーマッチは盛り上がります。しかしイタリアではそこにカンパニリズモが加わってより一層白熱します。今日はデルビーを1つピックアップして紹介します。
アタランタとブレシアのダービーに関してはこのDerby Daysの特集をご覧いただければわかると思います。(引用元です)
https://m.youtube.com/watch?v=pGVqT5bjBJA
これが最も典型的といえるカンパニリズモによって白熱するデルビーでしょう。
ベルガモ(アタランタの本拠地)とブレシアはどちらもミラノにほど近い工業都市。お互いの人柄も方言も多少の違いはあれど似ています。やはり近くに似た性格のクラブがあれば負けたくないのは理解できますよね。
さらにこのデルビーに固有するのが歴史。ベルガモとブレシアという街は900年前の戦争から敵対関係があるそう。1156年にブレシアがベルガモにほど近い都市に侵攻したのがきっかけだとか。そのいわば街同士の抗争がなくなった今でもサッカーには残り続けているわけです。
1990年代にはサポーター同士で抗争が起こって試合が延期になりましたが、何よりも特筆すべきは2001年9月30日のデルビー。
その日もデルビーらしくブレシアのマッツォーネ監督にはヤジが飛ばされていました。後半ロスタイムにブレシアのバッジョが同点ゴールを決めると、マッツォーネ監督は喜びを爆発させるだけでなく、アタランタのウルトラスの元へと猛ダッシュ。慌ててスタッフが止めようとするもそれを振り切り、ウルトラスの目の前で渾身のガッツポーズ。いや、アデバヨールかよ…もちろんアタランタのサポーターはこれに激怒。
これ以降、マッツォーネ監督はアタランタの目の敵となりライバル関係もさらに過激になりました。
このように、カンパニリズモが根付くイタリアではデルビーの敵対関係がさらに過激になり、良く言えばとても盛り上がるものになるのです。
後3つほど軽く紹介しておきます
首都ローマを2分するローマダービー。歴史的にカルチョの中心はローマではなく常にミラノだったため、ローマっ子の関心はスクデット争いよりもこのデルビーに。よく「危険なデルビー」と言われるのは従来のカンパニリズモに加え政治的な要素が絡んでるからです。気になる方は是非調べてみてください。
ヴェローナダービー(エラス・ヴェローナVSキエーヴォ・ヴェローナ)
イタリア北東部のヴェローナの2クラブのデルビー。ホームスタジアムは同じですが、スクデット経験もありファンも熱狂的なヴェローナと、2000人の地区が拠点でファンも温厚なキエーヴォとのコントラストが面白いデルビーです。
トリノを拠点とする2クラブのデルビー。セリエA最多優勝を誇る世界的メガクラブのユベントスと、かつて「グランデ・トリノ」と名をはせた古豪のトリノ。グローバル化したクラブと地元から支持の厚いクラブのデルビーはイタリアではここだけです。
デルビーに関しては小川光生さんの『サッカーとイタリア人』をご覧いただくとわかりやすいです。
④カンパニリズモの負の側面
しかしこのカンパニリズモもマイナスに働くこともあります。それは地域差別です。カンパニリズモの価値観は残念ながら排外主義の思想との相性が良いのです。
イタリアでは南北問題が根深く、北の人間が南の人間を馬鹿にすることもあります。そのため例えばFIGC(イタリアサッカー連盟)はTerritorial Dislrimination(地域差別)に当たるとしてナポリ人への差別チャントを禁止しています。しかし、2018年のアタランタVSナポリ戦の直前、アタランタのウルトラスがそれに反抗する声明を出しました。その際に彼らが言ったのが
"我々は差別主義者ではない。それ(差別チャント)はカンパニリズモだ"
このように、郷土愛から来る相手への憎しみの感情が差別へと繋がってしまうのです。よくイタリアでは人種差別が横行しているという記事を見かけると思いますが、人種間だけでなく地域間でもよくある話なのです。
またデルビーのような近い地域間での対立でも、日本人からすると人格否定とも取れるような汚い言葉でのチャントもよくあります。この場合不思議なのは人種差別との対比です。一般的に人種差別は相手に対する「差異」や「未知」といった恐れから行われることが多いですが、このような場合は先程の「差異」と、「同一性」や「既知」が入り混じる対立なのです。
とりあえず言えることとしては、地域間の対立が盛り上がりに繋がることは素晴らしいのですが、差別に繋がったら元も子もないということです。しかし、日本人の感じる「からかい」と「差別」の線引きと、カンパニリズモの染み付くイタリア人のそれとは良くも悪くもだいぶ異なるのかもしれません。
⑤最後に
イタリアにはたくさんダービーがあります。ミラノダービー、ローマダービー、トリノダービー、ジェノヴァダービー、ヴェローナダービー、ロンバルディアダービー、エミリアロマーニャダービーetc…軽くあげただけでもこれくらいあります。今回はこれらの根本に繋がる価値観のカンパニリズモについて触れましたが、そこに繋がる歴史や文化を調べても面白いと思います。
ということで日本時間2月10日午前4時45分キックオフのイタリア最大のデルビー、ミラノダービーをお楽しみに!
(今回このブログを書く上でめちゃくちゃ調べて書いているんですけど最近その雰囲気や実感などを伝えられないという「現地に行っていない限界」を感じてきたなぁ)